グラスを変えれば、日本酒の味がさらにおいしくなる!
にほん酒はじめ 講義6|講師:葉石かおり
グラスを変えれば、日本酒の味がさらにおいしくなる!
「料理は器で決まる」なんて言葉がありますが、いや、これはホントですね。コンビニで買ったお惣菜をプラスチックの容器のまんまあっためて食べると、何だかちょっと物悲しくなります。
プラスティックの容器のまんまだと「味わう」というより、単に空腹を満たすだけって感じがしてしまうんです。言い方がちょっと悪いけど、どんなおいしいものでも、食べた後にむなしさが残ってしまいます。と言いつつ、忙しい時は食器を洗うのが面倒なので、入れ替えはまずしませんけどね。
しかし余裕がある時は、プラスティック容器からお気に入りの食器に入れ替えます。するとどうでしょう。
チーズ入りちくわだって、立派な酒肴に早変わり。ウキウキして、ついお酒も進んでしまいます(毎回のことですが)。
さて、お料理はもちろん、日本酒だって酒器で味が変わります。これは見た目だけの問題ではなく、きちんとした裏付けもあるんです。
今回はオーストリアのグラスメーカーであるリーデル社でお話をうかがったことをベースに講義を進めていきますね。
使うのはおちょこではなく、2種のワイングラス。昨今、日本酒専門店をはじめ、日本酒をワイングラスで提供するお店が増えてきました。
「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」というコンペティションもあるんですよ。逆を言えばワイングラスで飲みたくなるような、日本酒が増えているということかもしれませんね。
たくさんあるグラスメーカーの中でも、リーデル社は早くに日本酒に注目。蔵元とともに大吟醸グラスや純米酒グラスを開発するなど、非常に積極的です。
私は両方とも愛用していますが、一度これを使ってしまうと、他のグラスが使えなくなるほど。本当によ~く考えて作られていることが舌を通してわかります。
これらのグラスを持っていることに越したことはありませんが、持っていない方のために一般的な白ワイン用のグラスと赤ワイン用のグラスを使い分け、日本酒を美味しくのむコツをお伝えします。
<用意する日本酒>
①大吟醸など香りが高いフルーティタイプの日本酒
②純米酒など旨味たっぷりの旨口タイプの日本酒
<グラス>
①口径がすぼまったワイングラス(主に白ワインに使用されるもの)
②ボウル部分が大きく、口径のすぼまりが緩やかなワイングラス(主に赤ワインに使用されるもの)
③おちょこ2個
まずおちょこにフルーティタイプの日本酒、旨口タイプの日本酒をそれぞれ注ぎます。先にフルーティタイプから香りが嗅いでみてください。どうですか? 香りはうっすらとするけれど、今一つフルーティタイプの魅力が花開きませんよね。
次に試飲をしてみましょう。
おいしいけれど、アルコール感が立ってしまい、「アタックが強い」と感じるのではないでしょうか?
続いておちょこに残ったフルーティタイプの日本酒を、①の口径がすぼまっったワイングラスに注ぎます。
さあ、香りを嗅いでみましょう。
まるで今切ったばかりのりんごやメロンを思わせるフレッシュフルーツの香りが立つのを感じられると思います。
これこそがワイングラスの利点です。おちょこよりも深さがあり、口径がすぼまっているため、フルーティタイプが持つジューシーな香りを存分に楽しむことができるのです。
感動したところで、試飲をしてみてください。
おちょこの時に感じたアルコール感やアタックの強さはなく、透明感やスッキリとした風味を味わっていただけたかと思います。
実はこれには秘密があるのです。
それが顔の向きです(下図)。口径がすぼまったグラスでお酒を飲む際、顔と舌はグッと上向きになります。するとお酒は舌先から奥へと一直線に細く長く流れていきます。口径が狭いため、口に入る量も限られているため、アルコール感を感じにくく、アタックもやわらかく感じるのです。
つまり大吟醸などのフルーティタイプ、そして『上善如水』を代表するようなスッキリとした軽快タイプは、こういったグラスで飲むと、その魅力を最大限に生かすことができます。
次に同じように旨口タイプの日本酒をおちょこから実験してみましょう。おちょこのままだと、ふくよかな米の旨味ややわらかなお米の香りをあまり感じることができません。
しかし②の口径のすぼまりが緩やかなグラスに移すとどうでしょう?
それまで感じなかった炊き立てのご飯や、甘い香りが立ち、旨口タイプの魅力である米のおいしさをたっぷりと味わうことができます。
これはボウル部分が大きく、香りが広がるためです。
こちらも顔の向きを見てみましょう(下図)。
①のグラスと異なり、飲む際に顔が上向きになることはなく、ほぼ水平を保ったままです。この時、お酒は舌先を飛び越え、舌の中央に「よっこいしょ」とのっかり、舌の四方に広く流れていきます。
口径が大きいため、口に入るお酒の量もたっぷり。
そのため、旨味をより多く感じることができるのです。『大七 生酛純米』をはじめとする旨口タイプは、まさにこのグラスがぴったりです。
今は100円ショップでもさまざまなフォルムのワイングラスを買うことができます。お値段以上に日本酒をよりおいしく飲むためにも、グラスにちょっとこだわってみませんか?
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講師プロフィール
酒ジャーナリスト、エッセイスト
一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーション理事長
葉石 かおり(はいし かおり)
講師インフォメーション
▼著書 「名医が教える飲酒の科学 一生健康で飲むための必修講義」
講座のイラストを制作されているのは藤井昌子さんです。
素敵なイラストをたくさん制作されています。
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