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おでかけ先でもアートを楽しむ!

茂世先生と行くアートワールド 講義4|講師:浦島 茂世
おでかけ先でもアートを楽しむ!

毎日少しずつ涼しさがましてます。もう、秋ですね。
この季節はお出かけするのにぴったりの季節。さっそく気になる美術館を訪れてみましょう。

そして、美術館や街にお出かけをするときに、ぜひチェックしてもらいたいのが街で見かけるたくさんのアート作品。
いわゆる「パブリックアート」です。

パブリックアートとは、道路や公園、広場など公共空間に設置されている芸術作品のこと。
戦前から日本には上野の西郷隆盛像や、渋谷のハチ公像(戦前のハチ公は金属供出により溶かされてしまい、現在のハチ公は2代目)のように銅像や彫像、記念碑などが公共空間に配置されていましたが、1970年代からはモニュメント性の薄れた芸術作品が置かれる割合が高まってきています。

これは、欧米各国で「建築物を建てる際、建築予算のいくぶんかはパブリックアートに充当する」という法律を制定した影響を受けたもの。
日本でもいくつかの自治体が条例やまちづくりガイドライン設け、街のなかに芸術作品を増やそうと試みています。

そのため近年では、大型のショッピング施設やオフィスビルの多くが、敷地内に様々な形でパブリックアートを設置するようになってきました。
つまり、お出かけしたときに芸術作品に出会える確立が高いというわけです、しかも無料だからうれしい。せっかくおいてあるパブリックアート、見ておかない手はありません!

◆パブリックアートはどうやって鑑賞すればいいの?

公共空間にある芸術作品は、だれもが平等に、自由に見ることができるもの。
だから、お子様やお孫様などといっしょにおしゃべりしながら見たり、周りを取り囲んだりすることもできます。自由に楽しんでみましょう。

美術作品の見方は、美術館でも公共の場でも基本的には変わりませんが、パブリックアートの場合はこんなことに気を止めておくと作品をより楽しめます。

・タイトルや作者名を確認前にまず作品を見る。

・その作品を見たときの第一印象を忘れないように覚えておく。

・なぜ、この彫刻が、この場所に置かれているのかを想像してみる。

・自分でタイトルをつけるとしたらどんなタイトルにするか考えてみる

・作品と町並みが調和しているか、あるいは違和感があるかを考えてみる

・この作品が、雨の日や大雪の日、春や冬だったらどのように見えるかを考えてみる

・いろいろ考えてみたあとに、タイトルや作者名を確認する。

・その場所に何度も訪れる機会がある場合は、季節や天候、時間帯で見え方の違いも楽しむ。

→つまり 作品単体だけでなく、環境と作品との関係性に思いを巡らせて見てみるのがポイント。
作品によっては、その土地や土地の歴史に関係するテーマだったりすることもあり、思わぬ発見があることも。

◆たっぷりパブリックアートを見たいならココへ!

パブリックアートをいっぺんにたくさん見てみたい! という方におすすめの場所をご紹介します。
お買い物のついでのときに、立ち寄ってみてくださいね。

■六本木ヒルズ周辺

2003年のオープン以来、東京の文化を牽引し続けている六本木ヒルズ。
敷地内には多数のパブリックアート作品や、座ることができるストリートファニチャーと呼ばれているベンチを多数配置しています。
そのどれもが、世界的に著名なアーティストが手がけたものです。

六本木ヒルズを開発したのは、港区を中心に都市開発を手がける森ビル。
森ビルは街の成熟には文化の成熟が必要不可欠と考え、さまざまな場所に芸術作品を設置しているのです。

ルイーズ・ブルジョワ 《ママン》 2002(1999)
2002年(1999年)/ブロンズ、ステンレス、大理石 9.27 x 8.91 x 10.23(h)m

地下鉄六本木駅から六本木ヒルズに入ると、入口でお出迎えしてくれる高さ10メートルの大きなクモ。
こちらは、98才で亡くなった彫刻家、ルイーズ・ブルジョワの作品《ママン》です。

初めて見ると、一瞬びっくりしてしまいますが、作品を真下から眺めてみると、おなかにたくさんの卵を抱えていることわかります。
このクモはお母さんなのですね。

ジャン=ミシェル・オトニエル《Kin no Kokoro》 2013年
2013年/ブロンズ、金箔、ステンレス鋼 330 x 360 x 169(h)cm
Courtesy: Galerie Perrotin, Hong Kong and Paris

ガラスを使った作品で知られているジャン=ミシェル・オトニエルの作品です。
六本木ヒルズと森美術館の10周年を記念し、2013年に毛利庭園の池に設置されました。
金箔をほどこされたガラスの玉が連なってハート型に弧を描いています。
この作品は、場所によって見え方が異なってくるので、周囲をぐるぐる回って見てみてください。

緑の多い毛利庭園は季節が変わるたびに趣が変わります。
この周囲の変化と作品とのコントラストを見比べるのも楽しいですよ!

また、けやき坂通りの歩道上にはアーティストや建築家の設計した「ストリートファニチャー」が並んでいます。
自由にさわったり、座ったりすることもOK。自分の体を使ってアートを体感してみましょう!

伊東豊雄《波紋》 2003年
2003年/座:クラッド鋼(削り出し加工)、無方向バフ、セラミック塗装、脚部:コンクリート
0.9 x 3.8 x 0.43(h)m

せんだいメディアテーク、多摩美術大学図書館などを設計した建築家の伊東豊雄によるベンチです。
都市の「森」に浮かんだ大きな水面と、その上に広がっていく波紋をイメージしたデザインです。

吉岡徳仁《雨に消える椅子》2003年
2003年/本体:ガラス、椅子脚部:ステンレス鏡面磨き、床:御影石バーナー仕上
椅子:0.75 x 0.98 x 0.99(h) x 0.41(sh)、塊:0.5 x0. 98 x 0.55(h)m、床:1.68 x 5.95m

こちらは、日本を代表するデザイナー吉岡徳仁による「雨に消える椅子」。その名のとおり、雨の日にはまるでその姿が消えるかのように見える椅子をイメージしたデザインです。

伊東豊雄、吉岡徳仁などいくつかのストリートファニチャーを座り比べてみると、素材やデザインが異なると座り心地や、座ったときの目線の位置なども異なってくることがわかってきます。
この「違い」を楽しんでみてください!

そのほかさまざまなアートが六本木ヒルズには点在しています。
六本木ヒルズのパブリックアート&デザインのページから、ガイドマップをダウンロードできますので、プリントアウトして散策のお供に活用してみましょう。
いつもとは違う場所を歩くことで、新しい発見があるかもしれません。
素敵なカフェやショップに出会えることも!

六本木ヒルズ パブリックアート&デザインhttps://www.roppongihills.com/facilities/publicart_design/

■ファーレ立川

また、都心からは少し遠いのですが、日本のパブリックアートを語る上で欠かせない場所としておすすめの場所が、ファーレ立川です。

ファーレ立川は、1994年に立川駅北口の米軍基地跡地に誕生した11棟の建物からなる街のこと。
デパートや映画館、図書館にオフィスビルなどがある街には、36カ国92人の作家による109点の芸術作品が設置されることとなりました。
都市計画のなかに最初から芸術作品を設置することが組み込まれるのは画期的なこと。
しかも100点以上という膨大な量!1日ゆっくり楽しめるほどです。

この計画にディレクターとして参画した北川フラムさんは、このファーレ立川の成功を買われ、越後妻有国際芸術祭や瀬戸内国際芸術祭に携わることとなりました。
つまり、現在ブームになっている芸術祭が生まれたきっかけの場所なのです。

ファーレ立川にある作品は、その街と自分との関係を見つめ直せるものが多いのが特徴。たとえば、

フェリーチェ・ヴァリーニ《屋上の円》
フェリーチェ・ヴァリーニ《背中あわせの円》

こちらの作品は、ふつうの街の風景に丸い図形が合成された写真のように見えます。
けれども、実は階段や建物に、ある一点から見ると丸く見えるように赤や黒で塗装がされている作品です。
それ以外の場所から見ると、街の中では単なるシミのように見えてしまうという作品。

この○を見える位置を探そうとしている間に、普段見慣れた街の風景もまた違ったものに見えてくるから不思議です。

サンデー・ジャック・アクパン《オブジェ(見知らぬ人)》

アフリカのナイジェリアの首長14人がずらりと道端に並んでいます。作家のアクパンが暮らす地域では、村人たちは自分の一番かっこいいときの姿を肖像彫刻として作ってもらい、死後に墓に飾る風習があるそうです。鮮やかな装いが美しい作品です。

レベッカ・ベルモア《車止め》

時間と土地との結びつきをテーマに制作するベルモアの夏至の太陽の動きを計算して作られたダイナミックな作品。
車止めと建物の2か所にアニシナベ語と日本語で「私は太陽を待つ」と書かれたプレートがおかれ、それらが夏至の太陽の光を反射して重なりあうのです。
つまり、正式な作品の姿は年に1回しか見られないのです。
これは現地に暮らしている方でも見るのが難しい……!
でも、そんな作品が街にあると、普段は忘れてしまいがちな夏至の日をきちんと意識できるから楽しいですよね。

このほかにも、ファーレ立川にはたくさんの作品が街のなかに設置されています。
ボランティアスタッフによるガイドツアーも行われているそうなので、ぜひ参加してみてください。

ファーレ立川アート
https://www.faretart.jp

このほかにも、街の中にはたくさんの芸術作品があります。お出かけのときには、ちょっと足を止めて街のなかのアートを見つめてみてくださいね。

お気に入りのパブリックアートがあればコメント欄で教えてください!


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講師プロフィール

美術ライター
浦島 茂世(うらしま・もよ)

神奈川県鎌倉市出身。
家族の影響で子どものころから美術館に頻繁に通うように。
特に頻繁に通っていたのは神奈川県立近代美術館 鎌倉(2016年閉館)。
大学時代に美学美術史を専攻。専門は1920年代の西洋美術・工芸について。 博物館学芸員免許も取得。同時に、 横浜のデパート内の美術館でアルバイト。
チケットやグッズ販売、監視など裏方業務に携わる。
「人によって絵の楽しみ方は様々なのだ」と、この時期に実感。
社会人経験の後、ワーキングホリデービザでフランスへ。
パリに滞在し、フランスやベルギー、イギリスなどさまざまなギャラリーや美術館に足繁く通う。特に通い詰めたのはポンピドゥーセンター。
帰国後、制作会社、マーケティング会社の制作職からフリーライターとして独立。
「OZmagazine」「東京人」「芸術新潮」など様々な雑誌やwebサイトで執筆をしつつ、国内外の美術館を積極的に訪問中。
主な著書に「東京のちいさな美術館めぐり」「日本の美術館めぐり」(株式会社G.B.)、「猫と藤田嗣治」など。

講師インフォメーション

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