コロナ禍で孤立深める高齢者の住み替え事情
老後を楽しく生きる〜住まい探し〜 講義5|講師:山床 哲夫
コロナ禍で孤立深める高齢者の住み替え事情
*この記事はココカラ大学2020年5月〜11月まで連載していた内容を移設掲載しております。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、住み替えを考える高齢者が増えてきていると言う現象がおきています。一体どういうことでしょうか。
そこで今回は、コロナ禍における高齢者の住み替え事情について何がおきているのか、現場の様子をお伝えしたいと思います。
いま高齢者向けの介護施設では感染予防対策のため、徹底した予防措置の態勢をとっております。施設の独自の対策により違いはありますが、一般的に館内の衛生管理の徹底に始まり、来訪者との面会や外出、外泊なども一切禁止という厳しい環境のもとで予防対策が行われています。
その結果介護施設での感染は最小限に抑えこまれていると評価する声が国内外から上がってきています。徹底した管理下により、一旦かかると重症化しやすい高齢者の命を守るため、日夜最前線で奮闘する職員の皆様には感謝と敬意しかございませんが、一方では、そうした大きな成果と引き換えに、失われていくものもあるようです。
面会・外出の禁止により、施設の入居者は家族や友人など外部から遮断された状態で暮らすことを強いられるという点が出てまいりました。
人との接触を避ける厳しい措置が、入居者の孤立を招いていると専門家から指摘されています。
先日、神奈川県の有料老人ホームに入居中の女性(82歳)からこんなご相談がありました。
「私は日頃から許可をもらって外出し、子どもや孫、友人たちとよく会っていました。最近は、家族にもまったく会えなくなったことが一番苦しいです。せめて自分の意向を受け入れてくれる施設があれば移れないものでしょうか」少し涙ぐんでいらっしゃいました。
そんなご相談者には、外出や面会などを制限しない「自立型のサービス付き高齢者向け賃貸住宅」のことをお話ししています。
「しかし、高齢者向け住宅はルールのしばりがない代わりに、感染のリスクが高いのではないですか?」そう心配をする方には、このようにお伝えしています。
「ご紹介するサービス付き自立型の高齢者向け賃貸ではマスクの着用、館内の消毒、食堂で間隔をあけて座るといった感染予防対策はしっかりと行われ、その点は安心して暮らせるように管理されています。また老人ホームと違い自由度は高く外に出る機会もあります。」
もう一つ、都内の有料老人ホームに入居している女性(85歳)の場合は、娘さんからこんなご相談がありました。
「母は難聴で耳がよく聞こえません。電話やビデオ通話が使えないため、これまで文通によってお互いの気持ちを交わしてきました。ところが、唯一の手段だった文通も先日、受け渡し時の接触をなくすため、禁止されてしまったんです。いつになったら母と再会できるのか、先が見えないことがつらいです」
そして、お伝えした施設介護のみならず在宅介護においても、コロナ禍で苦境に立たされている方々がいます。
今年7月、自宅で要介護3のHさん(85歳女性)を介護していた娘さん(52歳)が、新型コロナウイルスに感染していることがわかりました(PCR検査で陽性と判明)。そのため、娘さんは高齢の母親と2人暮らしの自宅には戻れなくなったのです。
このとき、母親Hさんの弟さんからこんなご相談がありました。
「介護者がいないと、姉のHは1人では生活することが困難です。すぐに入居できる介護施設を紹介してほしいんです」
そこで、空き室のある介護施設に問い合わせをしましたが、入居の受け入れは断られるばかりでした。どうしてでしょうか?
それは、感染者となった娘さんと同居していたHさんは、現状では濃厚接触者に当たるという理由によります。施設側はHさんを受け入れることで、他の入居者に感染リスクが出てくると考えているからです。
このように在宅の要介護者が孤立してしまい、行き場さえもないという事例が今、数多く報告されています。
いまだウイルスの終息が見通せない中、誰もが難しい判断を迫られ、どう対応していいか苦しんでいるのが実情です。
まずは「自分にとって最適な住まいとは何か」について、早めにしっかりと考えておくことが大切だと思います。
昨今のコロナ禍をきっかけに、その重要性がより一層明確になったのではないでしょうか。
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講師プロフィール
ライフプランナー
山床 哲夫(やまとこ・てつお)
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