「意思決定」ができなくなったときには
私の介護とお金のおはなし 講義6|講師:市川 裕子
「意思決定」ができなくなったときには
「私の介護とお金のおはなし」の最終回となる今回の講義では、『「意思決定」ができなくなったときには』をテーマに成年後見制度と民事信託契約についてお伝えしたいと思います。
「意思決定」ができなくなる原因には様々なものがあります。
皆さんが一番に思い浮かべる原因は「認知症」でしょうか?
私の母は早い時期に認知症の前段階と言われる軽度認知障害(MCI)に気づき、服薬等により発症を遅延させるように取り組んでいました。
母より10年早く亡くなった父は、亡くなる何年か前からアルコールが原因と思われる脳の萎縮により記憶障害やうつ状態を発症していました。
二人とも徐々に判断能力が落ちていき、不要なものを買ってしまったり、すすめられるままに定期購入の契約はするものの解約の方法がわからずそのままにしてしまったりと、気になる事象が増えていきました。
我が家は私が同居していたのでそんな異変に気づき対応することができましたが、なかには自分に不利益な契約であっても判断できずに契約を結んでしまい悪徳商法の被害にあってしまう方もいらっしゃいます。
認知症や知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分な方々は、不動産や預貯金などの財産を管理したり、身のまわりの世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり、遺産分割協議をしたりする必要があっても、自分でこれらのことをするのが難しい場合があります。
このような判断能力が不十分な方々を保護し、支援する制度が『成年後見制度』です。
成年後見制度は介護保険制度とともに2000年にスタートしました。
大きく分けると「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つにわけることができます。
「法定後見制度」は、判断能力が不十分になった時に、申し立てにより家庭裁判所によって選任された後見人等がご本人に代わって財産や権利を守り、法的に支援する制度です。
ご本人の利益を考えながら代理人として契約などの法律行為をしたり、ご本人が自分で法律行為をするときに同意を与えたり、ご本人が同意を得ないでした不利益な法律行為を後から取り消しすることができます。
家庭裁判所への申し立ては、親族だけでなく市町村長も行うことができ、身寄りがない方の場合は弁護士や司法書士などの法律の専門家や、社会福祉士などを後見人等に選出しますのでご安心ください。
これに対して「任意後見制度」は、将来判断能力が不十分となった時に備えるための制度です。
ご本人が元気で判断能力があるうちに、任意後見人を選び公正証書で代理権を与える内容について任意後見契約を結んでおきます。
この時点では契約を結んだ人は任意後見受任者となります。
その後判断能力が不十分になった時に家庭裁判所に任意後見制度の利用を申し立てし、家庭裁判所が任意後見開始を認めると任意後見受任者が任意後見人となります。
なお、任意後見契約と同時に見守り契約(本人の健康状態等を把握するために定期的に訪問するなどして見守るという契約)や任意代理契約(財産管理・身上監護に関する委任契約)や死後事務委任契約(死亡時の葬儀等事務に関する委任契約)等を結ぶことによりご本人の判断能力があるうちから、死亡後の手続きまでサポートを行うこともできます。
最後に「財産管理」に特化した話をご案内いたします。
『成年後見制度』では判断能力が不十分になってから後見人が財産を管理できるようになり、被後見人の死亡後はその効力を失います。
これに対して、家族が「委託者」「受託者」となって財産を管理したり、資産を活用する『民事信託契約』(家族信託)は、信託契約時から効力が発生し、死亡後も管理を継承するので財産を配偶者や子ども、孫に残すことができ、二次相続・三次相続の対応に備えることができます。
信託できる財産は、家や土地などの不動産、預貯金、株式、有価証券など法律上の制限は特にありません。
長い目で「財産管理」と「スムーズな相続」を考えていくには知っておいていただくとよい制度だと思います。
それぞれの制度にできること、できないことがあり、どちらか一つを取り入れれば備えが万全となるものではありません。
ご自分やご家族にあった制度、使い方を考えていただき、上手に組み合わせて活用していただければと思います。
「私の介護とお金のおはなし」では、私や私の周りの人たちの介護の事例を交えながら、お金にまつわる制度をご紹介しました。
人それぞれ、そして親子といえどもそれぞれ別の人間です。
それぞれ想いや考え、望みが違うかもしれません。
その人に合った生き方も違うでしょう。
この6回の講座の中で、皆さんの備えのヒントとなる内容が何か一つでもあったのであれば幸いです。
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講師プロフィール
介護ファイナンシャルプランナー CFP®
市川 裕子
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